EMC試験の流れと合格のポイント

EMC試験の流れと合格のポイント

電子機器の市場投入にはEMC(電磁両立性)試験の合格が不可欠です。EMC試験に不合格になると、製品の発売が遅れたり、設計のやり直しが発生したりするため、設計段階から適切な対策を講じることが重要です。

本記事では、EMC試験の流れや試験の種類を解説し、合格するためのポイントについて詳しく説明します。

EMC試験とは?

EMC(Electromagnetic Compatibility)は、電子機器が外部に過剰な電磁ノイズを放出せず、同時に外部のノイズ影響を受けにくくするための適合性を指します。具体的には、製品が他の電子機器と干渉せず適切に動作するために設けられた規格です。

EMCには、機器が発するノイズ(EMI:Electromagnetic Interference)と、外部ノイズに対する耐性(EMS:Electromagnetic Susceptibility)の両方が含まれます。これにより、電子機器が周囲に悪影響を与えず、安定して動作できる環境を確保することが求められます。

EMC試験の重要性

電子機器が市場で適切に使用されるためには、EMC試験をクリアすることが必須です。適合しない製品は、市場からの撤退や規制機関からの販売禁止命令を受ける可能性があります。

対策を怠ると、機器同士の誤動作や動作不良が発生するリスクが高まります。例えば、電磁ノイズが誤動作を引き起こすことで、医療機器や産業用機器の動作が不安定になる可能性があります。

無線通信の妨害も重大な問題です。スマートフォンやGPS、Wi-Fiなどの通信機器がEMC対策の不十分な電子機器からの電磁ノイズの影響を受けると、通信品質が著しく低下し、データの送受信が正常に行えなくなる恐れがあります。特に、車載電子機器や航空機の通信システムにおいては、ノイズ干渉が安全性に直結するため、EMC適合性の確保は必須です。

規格に適合しない製品は認証の取得ができず、海外市場への参入が困難になります。各国で定められた電磁適合性の基準(FCC、CE、VCCIなど)を満たさなければ、輸出も制限されるため、グローバル展開を目指す企業にとってEMC試験のクリアは重要な課題となります。このようなリスクを回避するために、設計の初期段階からEMC試験を意識した対策を施すことが不可欠です。

EMC試験の流れ

一般的なプロセスは以下のように進められます。

まず、試験準備としてEMC試験機関と試験計画を策定し、必要な機器や測定条件を確認します。次に、予備評価を行い、設計段階で試作品を用いた予備試験を行い、事前の問題点を洗い出します。

正式試験では、伝導ノイズ、放射ノイズ、耐ノイズ性能の試験を行い、機器が規格を満たしているかを確認します。その後、結果評価を行い、試験結果を分析して、基準を満たしているかを判断します。もし基準を満たさなかった場合、設計の修正と再試験を実施し、適合するまで繰り返し対策を行います。

必要な測定項目

EMC試験では、さまざまな測定項目が評価されます。その中でも特に重要なのが、放射ノイズ試験です。これは、機器が外部に放出する電磁波を測定し、基準値以下であるかを確認する試験です。放射ノイズが基準を超えると、周囲の電子機器に影響を及ぼし、通信障害や誤動作の原因となるため、慎重な対策が求められます。

次に、伝導ノイズ試験が行われます。この試験では、電源ラインや通信線を通じて流れるノイズが基準内であるかを測定します。特に、商用電源を利用する機器においては、伝導ノイズが電源系統を通じて拡散し、他の機器に干渉する可能性があるため、適切なフィルタリング対策が必要です。

そして静電気放電試験(ESD)が実施されます。この試験では、人体や周囲環境から発生する静電気が電子機器にどのような影響を与えるかを評価します。例えば、手で触れた際に発生する静電気が、電子回路に影響を与え、誤動作を引き起こすことがあります。そのため、適切な接地設計や保護素子の導入が求められます。

電磁耐性試験(EMS)も重要な評価項目のひとつです。これは、外部からの電磁波の影響を受けた際に、機器が適切に動作し続けるかを測定するものです。例えば、無線通信環境下でのノイズ耐性が低い場合、機器が誤動作を起こすことがあるため、適切なシールド設計やフィルタリング技術が不可欠です。

最後に、サージ試験が行われます。この試験では、突発的な高電圧に対する耐性を評価し、電源ラインや通信線に対する雷サージや瞬間的な電圧変動が機器の動作に及ぼす影響を確認します。適切なサージ保護回路を組み込むことで、高電圧によるダメージを防ぐことができます。

EMC試験における課題と対策

EMC試験で不合格になる原因は多岐にわたりますが、主にPCB設計の問題やノイズフィルタの不十分な設計、シールドの不適切な適用などが考えられます。

不合格となった場合は、放射ノイズの原因を特定し、シールド設計を見直す必要があります。また、伝導ノイズの対策として適切なフィルタを追加し、EMCシミュレーションを活用して問題点を事前に把握することが重要です。

EMC試験コストの最適化

EMC試験は高額なコストがかかるため、試験前の対策が重要です。試作段階での簡易試験を実施し、事前のノイズ評価を行うことで、試験のやり直しを減らすことができます。また、最適な試験機関を選定し、試験の目的に応じた機関を利用することで、無駄なコストを抑えることが可能です。

まとめ

EMC試験は電子機器の信頼性を確保するために不可欠なプロセスです。設計段階から適切なノイズ対策を実施し、試験前に十分な準備を行うことで、合格率を高めることができます。EMC適合性を確保するためには、適切な設計、シミュレーション、試験の3つをバランスよく取り入れることが重要です。